【感想】新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.52 『パテマ・いろは・ハル・ヨヨとネネ』観てきました!

新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.52パテマ・いろは・ハル・ヨヨとネネ! スクリーンで観たい劇場アニメ | WEBアニメスタイル
に行ってきました!『いろは』『ハル』は初見、『パテマ』と『ヨヨネネ』は、一度劇場で観ていた作品でした。
『パテマ』と『ヨヨネネ』は、スクリーンで見るべきアニメだと思うし、これはもう行くしかない!と意気込んで、参加。男女比が9:1ぐらいだったのかな。ちょっとビクビクしてました(笑)
今回は、4作品の紹介(ネタバレなし)と、トークショーの概要を少しばかり。
以下、4作品が上映される前の『パテマ』監督の吉浦康裕さんと、アニメスタイル編集長・小黒祐一郎の会話を箇条書きにしたものです。時間の半分は、質問コーナーだったのですが、トークと質疑応答どちらも混ぜ込んで書いています。ご了承ください。

  • パテマの作画は人物含めて、すべてCG。キャラクターも、一方がアオリ、一方が俯瞰で描いてたりするので、むしろ、CGを使わないと描けない。手書きにこだわる人ももちろんいるが、『パテマ』の際は、作画監督の又賀大介さんが馴染んでくれたので、やりやすかった。
  • 狭い空間を妄想するのが好き。イヴの時間の喫茶店、パテマの地下空間、アルモニの教室など。これらもパースとか意識すると、CGだとわかる。
  • 芝居にこだわりがある。『アルモニ』『イヴの時間』を初めとして、ひたすら喋らせることが多い。『パテマ』も台詞が実は多い。
  • 『アルモニ』は、教室の空気を生々しく描いた。スクールカーストの下位層(当時は、そこまで意識されたものでもなかった)だったので、その時の「教室で大声出すと、鬱陶しがられるけど、オタクはオタクで楽しい雰囲気」を出してみたかった。学園モノは、教室や学校の外側が描かれることが多いので、教室と廊下以外はあえて描かなかった。
  • 『アルモニ』の主人公の部屋に『パテマ』のポスターが貼ってあるのは、部屋に奥行を出すため。それと、主人公が好きそうなアニメというイメージはあったということと、同じ監督が手掛けているというアピールもついでに出来ればという意図(アピールしないと、同一人物と思ってもらえない)があった。それ以外に、特に深い意味はない。
  • それまで作っていた作品を、作家性として強く押し出そうとは考えていない。一度作ったら、違う形でやることを考える。狭い空間に世界を広げることが、発想の基盤。
  • 今度は、庵野秀明的爆発をやりたい。(小黒さん「作家性の爆発ってこと?」という発言を受けて)いえ、「爆発シーン」ですね。『王立』みたいなものがやりたい。
  • (同時期に公開されていた『アップサイドダウン 重力の恋人』についてはどう思われたか?という質問に対して、)プロデューサーから聞いて、Webサイトを見て、すぐパソコンを閉じた。見たら、影響されてしまうと思った。配信動画の公開は、こっちが先だったから、一応言い訳は立ったと思っている。ただ、今だに『アップサイドダウン』は、観れていない。
  • イヴの時間』は、いずれ続編を出したい。ただ、ファンは、完成されたストーリーを求めていると思うので、ハードル高い。(小黒さんの「小説で出せば?」の発言に)いいかも!小説は書ける。
  • イヴの時間』配信時代は、何をやっても新海誠の後追いと言われた。(でも、新海監督のおかげでやりやすくなったところはある。) 『イヴの時間』制作時は、これで世に出てやるという情念があった。
  • TVシリーズは、制作進行方が合わない。自分の作品は、いずれも中編なので、長編がやりたくなったら、1〜2クールやりたい。
  • 実は、今新しい企画が動いている。『アルモニ』も何らかの形で世に出そうと思う。
  • 小黒さん「吉浦監督は、会うまで変な人だろうと思ってた。(作品がそう!)でも、会ったら、まともだった」

こんなところですね。メモを取っていなかったので、覚え書きです。「影響を受けたSF作品」を聞かれて、以下の作品を挙げていました。

映画

作家

小説

  • 1984年*1

『パテマ』の「治安警察」や「歩く歩道」は、アシモフから影響を受けているとか。押井守監督の『パトレイバー』の名前もあがっていました。

ここからは、4作品の感想を。ネタバレはないです。


サカサマのパテマ
映画『サカサマのパテマ』オフィシャルサイト

夜明け直前の“空”を見上げる少年、エイジ。

彼の住むアイガでは、「かつて、多くの罪びとが空に落ちた」と“空”を忌み嫌う世界であった。そこに、突然現れた“サカサマの少女”。彼女は、必死にフェンスにしがみつき、今にも“空”に落ちそうである。彼女の名前はパテマ。地底世界から降ってきた。エイジが彼女を助けようと手を握った時、彼女に引っ張られるように二人は空へ飛び出した。恐怖に慄くパテマと、想像を超える体験に驚愕するエイジ。この奇妙な出会いこそ、封じられた<真逆の世界>の謎を解く、禁断の事件であった。

その頃、アイガの君主イザムラの元には、「サカサマ人」があらわれたとの報告が届く。イザムラは、治安警察のジャクに捜索を命じるのだった…。

人は誰しも、空に帰りたがっているのかもしれない。この作品を見て、そんなことを思いました。
落ちる、という感覚は人間の根源的な恐怖の一つだとするなら、飛ぶということは人間の根源的な欲求の一つだ。人類の歴史を鑑みると、私たちはいつだって、どこか想像もつかないぐらい遠くへ行くことを望み続けている。
多くの英雄が、物語に帰還を要請される。だから、飛ぶということは、落ちることとセットになっている。飛んだまま、というのは、冒険の失敗を意味することなんですよね。見たこともない世界へ大きな翼を広げたあとは、その翼をたたみ、地上へ落ちなければならない。多くの恐怖と、失敗への不安がつきまとう飛ぶという行為に、人は魅せられ、挑戦し続けてきた。
浮遊と落下はそのまま、希望と絶望に直結している。王道ボーイ・ミーツ・ガール、サカサマのパテマが描くのは、浮遊と落下の末にたどり着いた希望だ。

主人公・エイジとヒロイン・パテマが、お互いに「サカサマ」なので、カメラがぐるぐる回る異色アングルに度肝を抜かれました。観ているうちに「空に落ちる」感覚がリアルに感じられて、そわそわとしてしまう。初見時は、池袋のシネ・リーブルだったので、高いところからの景色を見て、空の広さが妙に怖くなりましたね。SFは、今、観ている世界を変える力を持っていると思うのですが、『パテマ』は、まさしくそういう作品だと思います。
「上に浮く」 シーンを見て、「落ちる!!」と思う作品を見ることは、そうそうないはずなので、もうこれだけでも観に行った甲斐がありました。


花咲くいろは HOME SWEET HOME
「劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME」公式サイト

祖母の経営する温泉旅館“喜翆荘”(きっすいそう)での住み込み生活にもすっかり慣れた、東京生まれの女子高生・松前緒花は、板前見習いの鶴来民子や仲居見習いの押水菜子らと過ごす毎日の中で、少しずつ変わっていく自分に気が付きはじめていた。
秋も深まってきたある日、クラスメイトでライバル旅館“福屋”の一人娘である和倉結名が、喜翆荘に女将修行にやってくる。
奔放な結名に翻弄されながらも面倒をみていた緒花は、掃除をしていた物置の中で、あるものを見つける。

P.A.WORKSが、2011年にTVシリーズとして放映していた作品を劇場アニメ化した作品。小黒さん曰く、今回のラインナップは、新進気鋭の制作スタジオや若手監督と呼ばれる人たちの作品で揃えているが、『いろは』だけは、老練された監督と制作スタジオだそうで。
同時に観ることで、改めて実感するところですが、格段に「上手い」という印象を持ちました。他の作品が拙いわけでも、面白くないわけでもない。むしろ、粒ぞろいといってもいいぐらい。それでも、『劇場版花咲くいろは』は、格別に上手い。
短い時間の中で、緒花・皐月・翠の四十万三世代だけでなく、菜子、民子のエピソードも盛り込んでいる。これが可能だったのは、脚本を担当した岡田麿里の時間と土地の描き方の上手さと、監督・絵コンテを手がけた安藤真裕のカットのおかげだと思います。カットの上手さに関しては、こちらの記事が詳しいです。
「花咲くいろは」 フレームの中の世界を探ってみよう - subculic

今作で、特に印象的だったのは、部屋の外、廊下や建物の外から部屋の中を映すようなカット。さらに廊下の外側から映るカットなんかもありましたね。これによって、ひとつのカットで、何人ものキャラクターの動きが把握できるようになっている。ひたすらに快楽性が高いんですよね。ニヤニヤしながら、観てました。

脚本でいえば、皐月が「輝きたいから東京に出たい」というのと、緒花が「東京にいるけど、輝いている気がしない」というのは、面白いなと。辻村深月夜想のインタビューで、「ファンに、辻村さんの作品は、東京に出れば変わると書かれていることも多いですが、元々東京に住んでいる人はどうすればいい?と聞かれて、その場では何とか答えたんだけど、心に残った質問だった」みたいなことを言っていたのですが、それを思い出しました。
親元に戻ってきて初めて、親心がわかる。皐月も緒花も同じような経験をしているから、話にも説得力が自然と出てくる。今回、緒花と菜子シーンには、グッときました。あれは仕事が忙しい親を持つ菜子に共感しているのもあるのですが、それ以上に、彼女が辛抱強く家族に向き合い、輝く姿に心打たれているから、緒花は走れるんですよ。ああいう、話作りをされたら、こちらも涙腺を決壊させることしかできないですよ。
いい映画を見たなーと、素直に感服させられる一作でした。

ハル
劇場中編アニメーション『ハル』

「くるみに、生きていることを思い出させるために、ボクは人間になった」
ハルとくるみの幸せな日常。
いつまでも続くと思っていた日々は、飛行機事故で突如終わりをつげた。
けんか別れのまま、最愛のハルを失い、生きる力も失ってしまったくるみ。
彼女の笑顔をとりもどすため、ヒト型ロボットのキューイチ<Q01>は、ハルそっくりのロボハルとしてくるみと暮らすことに。
ロボハルの頼りは、かつてくるみが願い事を書いた、ルービックキューブ
色がそろうごとに溢れてくる、くるみの想いに応えるため、ロボハルが奮闘するも、くるみはかたくなに心を閉ざしたまま。
ロボハルを作った荒波博士、そして京の街の人たちに助けを借りながらも、ロボハルは、人について、そしてくるみについて知っていく。
少しずつ打ち解けるロボハルとくるみだったが・・・。

新進気鋭のスタジオ・WIT STUDIOが『進撃の巨人』の傍らでこんな良作を作っていたとは 、と驚きました。
あらすじからもわかるように、「取り残された者を慰撫する物語」なんですよね。苦しいことがある人生でも、愛しい人や嬉しいことがあるから、あったから生きていくことが出来る。観ていて、『あの花』や『ピングドラム』を思い出したりして。
今作の最大の魅力は、アンドロイドでトラウマを取り除くのではなくて、ヒロインのくるみのクリエイティブ性がトラウマ解除のきっかけとなることなんですよね。人を魅了するようなモノを作るヒロインというと、『東のエデン」の森見咲や『ガッチャマンクラウズ』の一ノ瀬はじめ辺りが浮かびますが、彼女たちの能力って、ストーリーの展開において、そこまで重要なものではないんですよね。二人とも、そのクリエイティブ性の高さで他の人に影響を与えるんだけれども、キャラ付けの領域で収まっているように思う。一方、『ハル』は、最後まで日用雑貨や服飾小物をつくることを重要なものとして描いている。
先日、
地味清楚系だと思って結婚した嫁の金遣いが荒かった
という増田エントリーと、それに付随した、
ケチな男は結婚するな - しろぐらまー
という記事が話題になっていたんですけど、『ハル』が描いているのって、まさにこれだと思うんですね。視界を彩るような日用雑貨を使用することは、誰か一人の人生を豊かにすることが出来る、と。増田の指摘するように、それはお金にならないし、貯金額の面でいえば貧乏なのかもしれない。けれど、もっと違う豊かさを手に入れることができる。愛する人の喪失を経験して、笑わなくなった人間が、生活を彩る小物をきっかけに、愛する人の思い出に包まれながら、生きることを思い出す。

くるみは、人の思い出のつまった小物を集めるのが好きで、さらにそれを「リメイク」することができる。彼女は、慰撫される立場にありながら、服にボタンをつけたり、外部記憶装置の破損を直し、デコレーションしたりすることで、人間の感情がわからないロボハルの心や身体を、優しさで覆っていく。そして同時に、ハルとの思い出を思い返し、救われていく。
モノと思い出が溢れかえる空間で、ひとつひとつ組み合わされていくルービックキューブが意味を作り出して行く。観ていて、じんわりとする作品でした。

魔女っこ姉妹のヨヨとネネ
魔女っこ姉妹のヨヨとネネ

徳間書店発行のコミック雑誌「月刊COMICリュウ」で連載され、大塚英志の事務所「物語環境開発」のキャラクターデザイナーとして知られる、ひらりんのオリジナルコミックス「のろい屋しまい」を原作とし、スターチャイルド×ufotableのタッグがおくる新作劇場アニメ『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』。
監督に平尾隆之、キャラクターデザイン・総作画監督柴田由香、副監督に高橋タクロヲといった強力スタッフが揃い、主人公・のろいや姉妹の姉のヨヨ役に諸星すみれ、妹のネネ役に加隈亜衣という期待の実力派若手キャストが作品を彩る。
さらに、声優・小松未可子がテーマソングアーティストとして参加し、音楽面からのアプローチによる作品表現という新天地に挑むことも話題となっている。
更なるスタッフ、キャストも発表となり、少しずつその全貌が明らかになりつつある、ufotable最新長編劇場アニメーション。魔女っ子アニメの原点回帰にして最新作たる、ファンタジックな世界に是非、ご期待下さい。

トークショーで、吉浦監督に、「同年代の監督としてスケジュール管理法を聞き出したい」とまで言わしめた一作。小黒さんも、「今まで見てきたアニメの中でもトップクラスに「動画が」いい」と絶賛していました。
2013年を通して、劇場アニメで宣伝PVを見る機会が多く、公開を楽しみにしていた一作です。2013年最後に観た劇場アニメが、『ヨヨネネ』だったのは、本当に嬉しかったですね。「生きててよかったー!!」とか、本気で言ってました。
魔法陣を指でクルッと描く(余談ですが、タブレットスマホを扱う手つきに似ているのが、印象的でした。) ヨヨの可愛さと、ネネちゃんの清楚えろさは底なしでした。「かけます、ときます呪い屋姉妹!」とハモる姉妹の可愛さに悶絶。いつ声がもれてしまうか心配するぐらいに、可愛かったです。4作品ラストということもあって、元気の出るド王道でした。こうして、4作品見比べてみると、改めて、わかりますが、キャラクターの動きが魅力的、快楽的。これに関しては、とりあえず観てください!とオススメいたします。
それ以上に詳しい感想は、すでに書いているので、こちらに譲ります。(ただし、ネタバレあり)
記事

以上4作品の紹介でした。
オールナイトでこんなに濃い4作品も見せられて、正直疲労困憊でしたが(笑)、本当に楽しい時間でした。アニメスタイルイベントにはどんどん参加したいですね。

*1:文脈的には、ジョージオーウェルの「1984年」だと思うのですが、「イチキューハチヨン」と仰っていたので、村上春樹の『1Q84』かもしれないです