【感想】『10DANCE』が描く魅惑の関係性

『10DANCE』を見ていると、つくづくBLが好きだなと思う。

BLと一言に収めたところで、そこには様々な作品があって、あらゆる欲望が渦巻いている。しかし、BLの醍醐味は、奪い合うようなキスから始まる大胆なベッドシーンといっても過言ではない(たぶん)。そこには、男同士のあふれる色気が集約されている。

『10DANCE』には、そういったベッドシーンは2巻時点ではまだ見られない。しかし、ベッドシーンに相当する色気を放つシーンとしてのダンスが描かれ、間違いなくBL読者の要求に応える絵が描かれている。

10DANCE 1 (バンブー・コミックス  麗人セレクション)

10DANCE 1 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)

鈴木信也(すずきしんや)と杉木信也(すぎきしんや)はそれぞれソシアルダンスのラテンとスタンダードの日本チャンピオン。名前は似ているが正反対の二人は親同士からして犬猿の仲。しかし、杉木からの提案によって、それぞれがお互いのダンスを教え合い、10種類のダンスで競う「10DANCE」に挑戦することに。それぞれのダンスの違いに戸惑いつつも、お互いの距離は縮まって…! ?話題のダンスBLコミック、待望の第1巻!

帯には「本格ダンスコミックスではない」と書かれているが、本作ではダンスの説明(色っぽい!)もかなり入る。作中で杉木が講釈するスタンダードのダンスにおける「リード/フォローの役割」は、「男女」の説明でありながら、彼らの関係性を描いているように読める。

BLの「攻め受け」もまた「役割としての男女」を意識させるからだろう。
守る側と守られる側。主導権を握る側と握られる側。しかし、どちらか一方が、どちらか一方に見返りの少ない愛を注ぐということではない。不平等性ではなく、返ってくることを前提として愛を示す行動をしている。それは、『10DANCE』で描かれるダンスの役割・リード/フォローを見れば一目瞭然だ。

リード―男性は女性を際立たせる影役に徹し、フォロー―女性は華のように美しく踊る。
スタンダードのダンスにおけるこの関係性は、一見女性の方が美味しい役割のように見える。しかし、実際は、首の動きや女性のドレスの開き具合、女性の動きのすべてを男性が操作しており、今後の動向を握るという意味では男性優位でもある。しかし、男性側が身体を捩じり厳しい体制で踊るフォローを優しく、それでいて力強くリードしなければフォローはついてこない。

スタンダードのダンスにおいて、「男性/女性の方がいい」という言葉はない。一切が対等だ。女性は男性のリードなしにはホールドの姿勢を保てず、男性は女性をきちんとリードし、美しく輝かせることで役目を果たすことが出来る。
両者が両者の役割に敬意を抱き、お互いのために最大限の動きをしなければ、魅力あるダンスは成立しない。相手の領域に踏み込んでまで相手を思いやったり、相手から与えられることに甘えて、自身のやるべきことを疎かにしたりしてはいけない。目的ある関係性は、両者の役割を最大限に果たすことで、強化される。


もちろん、これは男女の物語でも読める要素だろう。しかし、『10DANCE』では、ラテンダンサーの鈴木信也とスタンダードダンサーの杉木信也が、お互いのダンスを教え合うため、リードとフォローを入れ代わり立ち代わりで演じる。結果、「リード/フォロー」の役割はお互いの中でさらに深い領域で認知され、より魅力的な関係性を模索し、奮闘する姿は艶っぽく映る。


鈴木は、杉木に対して独占欲や征服欲がありラテンダンサーらしい色気を放つが、杉木は鈴木に対して、憧れや尊敬を抱いており、その素振りをスタンダードのダンサー(紳士)らしくその素振りを誠意的に見せる。
しかし、それぞれがお互いのダンスを踊ることで、相手への好意表現を変えなければならない。まったく違うタイプの男同士が、お互いの好意表現を覚える、伝えることを試みるシーンが常に見られるというのも本作の魅力だろう。


その関係性の何がいいかって、その超えてはいけないお互いの領域が手を合わせた瞬間にピタリと合ってしまうところであり、お互いのことを自分の半身のように捉えてしまうところなのである。
自分とぴったり合う身体は、もう自分そのものだ。しかし、依存することなく自分自身を保てている。そういう関係が私はとても好きだ。そして、その関係性を艶っぽいものとして描写してくれるBLが好きだ。

『10DANCE』が描く魅惑の色気と、身体がぴたりと融け合う男二人をぜひご堪能あれ。